2016年5月27日金曜日

照屋沙流堂のえらぶ中牧正太作品30首 (うたの日首席100回記念)

少年がこんなにうれしそうなのに左右の絵には間違いがある

ぼくの手がぼくの体に服を着せ通夜の支度を整えている

してやれる全部全部を為し終えて禿げタンポポはまだ空をみる

むずかしく考えながら電柱の影を歩けば電柱がある

それからはアンドロイドに替へましたとても仲良く暮らしてゐます

養豚と百回言うと養豚のことを忘れてうまく踊れる

3D映画のあとの手のひらの雨粒もうひとつ来い雨粒

焼け焦げて浜辺に着いた棒っきれ少しゆっくりしてったらいい

グランデは意外にでかく僕たちは初めて顔の全部で笑う

今日会った人は六名だれもみな何かしながらわたしと話す

さよならの傷に効かざる鬼怒川の固形燃料ながながと燃ゆ

父に説く思春期よりもやわらかく紅葉マークの上下について

よかったら歩きませんかさよならへあのどうしようもないさよならへ

結論に君は近づくいくつかの飛べない鳥の名をあげながら

枝が実の手を離すのか実が枝を千切りゆくのか林檎や吾子や

夜に合う歌を薦めるユーチューブもうその件は終わったんだよ

文語にてともに学びし民法に禁じられつつただ雨宿り

おまえまた人を信じてみるのかい紐と錘(おもり)は垂直を指し

すみれ道ゆく子の靴のそのままでいてほしい青いてくれぬ青

長病みを明けし君との昼オセロ二寒五温の弥生ことしは

がりりごり使い込まれた合い鍵を渡されながら飴玉を噛む

費やした時がいまさらずんと来て離し忘れる給湯ボタン

外は池ゆうべやさしいありがとうごめんなさいがずいぶん降って

君の椅子が冷えてゆくまで目をとじる 次に見るのは何いろの部屋

ありがとう楽しかったと笑む君の明朝体になりゆく言葉

センセイと呼ばれる人と呼ぶ人の深いくちづけ、あとピスタチオ

湯葉を待つ、今ごろは君ひとりではないことでしょう、少し固まる

ややこれは秋が強めだ、君が来ない台風が来るジャムがあかない

あきらめろと瓶の手紙を突っ返す地球の七十一パーセント

短編の僕らをのせて井の頭公園行きのスロウボートは


中牧正太氏のうたの日首席100回を記念し、うたの日の一覧機能から中牧作品の30首を厳選しました(表示は掲載逆順)。

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